白狐通信

特別な年の、特別な色。にほんの伝統色5色について

この2021年、創業270周年を迎えた上羽絵惣。
江戸時代から続く商いの中で、廃れたものもありますが、新しい色や商品も多数誕生しました。
今回、限定色として選んだ5色の歴史は、江戸時代よりももっと前……天平(奈良)時代にまで遡ります。
そのころ国は、学生や僧侶を唐へ留学させ、様々な文物を取り入れました。
また朝鮮半島との交流も盛んで、これらの交易物は正倉院宝物からも、その一端がうかがい知れます。
この時代、天然痘の流行などで国が乱れ、仏教の鎮護国家に思想とあいまって仏教が大きく発展し、国を守るための法会や祈祷が盛んに行われました。
東大寺の造営、盧舎那仏金銅像(るしゃなぶつこんどうぞう・大仏)など、多くの寺院、仏像が作られました。
この時代の現存する仏像の多くは脱活乾漆造(だっかつかんしつぞう)という製法で作られており、その表面は繧繝彩色(うんげいさいしき)と呼ばれる独特な彩色と金などで彩られていました。
繧繝彩色とは、赤系、青系、緑系、紫系、丹色の5色の配色原理を「紺丹緑紫(こんたんりょくし)」と呼び、それらの色を3~6段階の濃淡に分けて帯状に塗り、ぼかしを使わず立体感を出す手法です。

仏像以外にも、お寺や神社の建築物にも多くみられる色合い。
伝統色5色は、まさに紺丹緑紫の色。時代を超え、懐かしさやオリエンタルな印象を持つ色の組み合わせです。

【橙】

橙

橙(だいだい)とは、インド・ヒマラヤ地方が原産の柑橘類です。
通常の果実は、完熟すると木から落ちますが、橙は完熟した後も2~3年は木の上に残るそうで、こうして何代もの果実が同時に木に生ることから「代々」と呼ばれるようになります。
江戸時代先祖代々栄えるとかけ、縁起のよい果物だと考えられ、お正月の鏡餅やしめ縄中央の飾りとして利用されています。
ヒンドゥー教ではオレンジ色は「幸運を運ぶ」色とされており、富と幸運の女神ラクシュミーが好むヘナの色でもあります。
インドの花嫁は、両手に精緻なメンディ(ヘナアート)を施します。鮮やかなオレンジ色の手指の花嫁が嫁いだ家には、幸運が約束されるといわれているそうです。

【群青】

群青

日本画の岩絵具の色名でもある「群青」。日本画には欠かせない色であり、桃山時代の障壁画、江戸時代の琳派の屏風絵などに使われています。
古代から、中東の国々でも最も貴重な色とされ、金と同等の価値とされていました。
顔料は、鉱物の瑠璃(ラピスラズリ)から作られており、鉱物そのものが宝石として価値のあるものであるため、大変神聖な色としてイスラム教のモスクや、仏様の髪の毛の色のみに使われていました。
瑠璃は、エジプトでは天空と冥界の神オシリスの聖なる石。
仏教世界の中心にそびえ立つ須弥山(しゅみさん)で産出される宝石で、仏教の七宝の一つ。その宝石の色にちなんだ瑠璃色も至上の色として神聖視されました。
日本では、藍銅鉱(アズライト)を精製したものを使用しており、瑠璃とは別物ではありますが、精製には大変手間暇がかかり、貴重な色には変わりありません。

【緋色】

緋色

日本には古来より赤色の染料として、茜・紅花・蘇芳の三種が用いられてきました。この内、茜の根で染めたものを緋色(ひいろ)と呼びます。
英語ではスカーレット(scarlet)。ペルシャ語で、こちらも茜染の高級織物が語源です。
緋という漢字は和訓では「あか」「あけ」とも読みます。その呼び方の通り、お日様や火の色のことです。
平安時代には、茜に替わって支子(クチナシ)の黄色、蘇芳の渋い赤を混ぜて、灰汁を触媒として作った紅緋を生み出すことも行われており、大和朝廷時代より、この緋色が官人の服装の色として用いられ、紫に続く高貴な色と位置付けられました。
ヨーロッパでも炎の色とされており、枢機卿職の象徴の色でもあります。

【松葉緑青】

松葉緑青

緑青は本来、銅が酸化することで生成される錆のこと。読んで字のごとく、この錆の色合いが「みどりあお」だからです。
日本画の岩絵具は、孔雀石(マラカイト)から精製します。
孔雀石(マラカイト)は紀元前2000年頃の古代エジプトで既に宝石として使用され、ラピスラズリ(瑠璃)などと組み合わせ、特定のシンボルを表す装身具に用いられていました。
さらに、この石の粉末は顔料として使用され、クレオパトラがアイシャドーに使っていたことは有名です。
古代ローマ時代には、既に人工緑青の精製方法が発見、使用されてきたほど、長い歴史のある顔料です。

【紫紺】

紫紺

名前の通り、紺色がかった暗めの紫色です。紫草の根で染めていたことから、「紫根」と表され「紫紺」は明治以降につかわれた色名です。
この染色方法は大変な手間と、温度管理が必要であったためとても貴重でした。
紫の染料は、小さな貝の内臓から得られる貝紫もあり、吉野ケ里遺跡(弥生時代)からも貝紫で染めたとされる布片が出土しています。
現在でも天皇即位の礼の幡で用いられますが、「紫紺の優勝旗」と言われるように、高校野球や学校の校旗でも使用され、尊ばれる色です。
古代中国では陰陽五行説とともに、神仙節が流布していました。ごれは人間界とは別に「神仙界」が存在し、紫雲がたなびくそこに昇天すれば不老長寿の仙人になるという考えです。
他にものちの仏教では、阿弥陀仏が紫雲に乗って來迎するともいわれています。その他、北極星を紫微星、その周りの星座を紫微垣と呼び、その展開は天帝の宮殿と言われました。
中国最大の宮殿は紫禁城、日本でも御所の内裏は紫宸殿と呼ばれているように、「紫」には高貴で不思議な印象があるようです。

更新日: 2021年11月16日 @上羽絵惣スタッフ